
| 5 「ア・テストって音楽とかもあるんね。」 1月に入ってからも、俺と轍生は、ほとんど毎日、今度は海昊さんの新居にいた。 「そーなんスよ。あと、美術、保体に技家。9教科っスよぉ。」 ア・テストは、50点満点9教科。 海昊さんのおかげで、何とか5教科は大丈夫そうな感じはした。 あとは、副教科だ。 「せやけど、二人とも、音楽はようできはるなぁ。」 海昊さん、俺らのア・テスト模試の採点をしてくれている。 「坡、41点。轍生、40点。合格点やんか。」 「よっしゃ、1点勝ち!」 「くそ。」 俺ら昔から音楽は得意だったりする。 楽器とか作詞とかも実は好きだ。 轍生は、ドラムができたり、俺はギターができたり。する。 まあ、でもそれで食ってくわけにはいかないから、お互い趣味程度だけど。 「せやけど、理科があかんなぁ。坡、22点。轍生、34点。」 「よっしゃ!」 「げ。」 今度は、轍生がガッツポーズ。 数学はまだマシだが、理科の化学苦手だな。 「坡、ここもっかい解いてみぃや。」 そういって、海昊さんが指さしたのは、大問3の問1。 轍生も間違えていた。 海昊さんが問題を読んでくれる。 「銅4.0gから酸化銅5.0gができたんやろ。せで、銅の質量と酸化銅の質量の比ぃは、4:5や。」 轍生も一緒に頷く。 「銅2.4gが完全に反応してできる酸化銅の質量は、2.4gかける4分の5や。イコール?」 「えーっと。3.0?」 天井に答える俺。あ。そっか。目線を下して海昊さんに言った。 「増加する質量は、加熱した後の質量が2.8gだから、3.0引く2.8で……」 「0.2。」 轍生と解答がシンクロした。 大きく海昊さんがうなづいた。 ほんと、海昊さんってすごいんだ。 教科書や参考書見ただけで、俺たちに丁寧にわかりやすく教えてくれる。 頭が良いんだ。 「坡、英語ええやん。44点。」 「おっしゃ!」 英語は結構好きだし、得意。 海昊さんは、できるとすごく褒めてくれる。 学コの先生も皆海昊さんみたいだったら全教科頑張れるんだけどな。 などと勝手なことを思いつつ、確実にレベルアップしているのを感じていた。 この調子でア・テスト頑張るぞ。 「すごいんねー、坡さんたち。頑張っとうね。」 冥旻さんがコーヒーを運んできてくれた。 俺は、顔の前で指を振る。 「冥旻さん。その場合、すごいねー。とか、すごいんですねー。頑張ってるね。とか、頑張ってますね。っていうんですよ。」 冥旻さんは、可愛く口元をおさえると、言い直した。 でも、さすが海昊さんの妹さんだけあって、覚えるのが早い。 殆どなまりもなくなってきていた。 「コーヒー、どうぞ。」 「ありがとうございます。」 俺ら、小休止。 冥旻さんが、テーブルの問題用紙を見て、手に取った。 「じゃ、私が問題だしていいですか。」 ほら。もう、うち。から私。に自然になっている。 「1787年、寛政の改革を行った人物は?」 俺らの了承を得て、冥旻さんが問題を口にした。 社会。これはわかる。俺は思い切り挙手。 冥旻さんが嬉しそうに、坡さん。と、指す。 「松平定信!!」 「ピンポンピンポン!!すごーい!」 次いで、日清戦争の講和条約は?と質問がきた。 えっと。轍生の顔をみると、首を傾げた。 冥旻さんが、海昊さんに手マイクを向ける。 海昊さんは、咳払い一つ。 「下関条約……やったかな。」 「正解。おー。すごいね、お兄ちゃん。」 さすが、海昊さん。 「ワレかてちゃんと勉強せなあかんよ。」 「わかってますよーだ。もうすぐ同じ年やね。お兄ちゃん。あ。同じ年だね、お兄ちゃん。」 冥旻さんは、可愛く舌を出して言い直す。 そう、年明けから冥旻さんは、K女の1年に転校。 だから海昊さんと同じ学年になっちゃうんだ。 でも、海昊さん。 こっちにきてから半年以上学校にいってなかったからって、よくダブル決心したよなぁ。 2年からでも全然大丈夫そうなのに。 それに、本来なら同じクラスとかになれたかもしれないから、ちょっと残念だ。 「ほなまた明日な。」 「ありがとうございました。」 今日も夕方まで海昊さんの家で勉強をして、帰宅。 EX-4に鍵を挿した。 もうほぼ俺の身体の一部と化したEX-4。 少しずつだけど、カスタムしたりもしてる。すげー楽しい。 ものの数十分。自宅に到着。 「じゃあな。」 「おう。」 自宅前で轍生と別れた。 「おかえり。」 「……ゆづ姉ぇ?」 玄関を開けると、何と、2年前に大阪に嫁にいった10歳違いの姉、夕摘がいた――……。 <<前へ >>次へ <物語のTOPへ> |